団長日記

「温里湯」と「レディーカガ」

 「『超麺通団5』と『超麺通団6』を同時発売する」という無謀な企画はその後、私とN日本出版社のU山さんが正気に返って(笑)結局「年内に2冊出そう」という話に収まって、そこで「一回原稿を上げた『超麺通団5』を精査してちょっと内容を追加しよう」ということになって、とりあえずこないだ、ついに精査を完了した(原稿を書き終えることを業界用語では「脱稿」と言うが、言葉の響きが「脱腸」みたいであまりおしゃれじゃないので私は頑なに使わない)。それで大きな一山を越えたのに、直ちに『インタレスト』の締切に突入して、『うどラヂ・テキスト版』の締切も近づいてきて、授業も間もなく始まるという追い込まれぶりの中、研究室で思案に暮れながら周りを眺めていたら、片付けのスイッチが入ってしまったのである。

 しかしまあいずれにしてもあと1年でこの研究室は引き払うことになるので、どっちみち片付けはしなくてはならないということで、まずは20数年にわたって観光マーケティングや情報発信の資料用に集めていた旅行会社や全国の観光地のパンフレットやリーフレットやフライヤーの山を、いるものといらないものに分けて一気に処分することにした。そしたら、まあ片付けの“あるある”で、いるものといらないものを選別しているうちについ読んでしまったり見入ってしまったりするわけで(笑)、片付け始めてからわずか10分で、1枚のフライヤー(誰がいつ「フライヤー」なんか言い出したのか、要するに「チラシ」じゃ)に目が留まった。

 2007年に熊本県の山鹿温泉協会というところが行った観光キャンペーンのフライヤーであるが、メインタイトルの「温・里・湯」に小さく書かれたルビが「おん・りぃ・ゆぅ」(笑)。

 いやー、数十年ぶりに「笑いの文化人講座」の「お笑いプリントギャラリー」の「恥ずかしい語呂合わせ撲滅委員会」の投稿作品を思い出しました。観光旅行系では、

(タイ旅行のチラシ)……「タイへ行きタイ!」
(グアム旅行のチラシ)…「残暑はグアムに行くざんしょ」
(鎌倉旅行のチラシ)……「いざ鎌倉 いっ寺っしゃい、み寺っしゃい」
(伊勢旅行のチラシ)……「HELLO!! 海老リバディ 舌鯛(ぜったい)満足!」
(鹿児島ガイドマップ)…「はい!地ぃ図」

などというベタネタから、

(西鉄旅行の旅行企画)…「夏のオキャクサマーッ!! キャンペーン」

という爆発ネタまでよっけあったなあ。あと、旅行じゃないけど風呂釜の商品名の「バスコダ釜」とか、サケと高菜が入ったふりかけの商品名「シャケ菜ベイビー」とかの名作もありました(笑)。

 続いてもう1枚発見されたのはこれ。

 一瞬、レディー・ガガがコラボで「食べ歩きクーポン」を出したのかと思ったら、よく見ると「レディー・ガガ」じゃなくて「レディーカガ」。「ガガ」じゃなくて「カガ(加賀)」だ(笑)。地元加賀の温泉旅館の女将さんや芸妓さんが「レディーカガ」としてお勧めスイーツを紹介するという趣向の2012年の企画だったが、企画がヒットしたかどうかはさておき、なかなか切れ味鋭く遊んでおられて何よりです。「レディーカガ」のお姉さん方にはぜひ一度、小倉駅のプラットホームの立ち食いうどん・そばの「ぷらっとぴっと」とコラボで何かやって欲しいところです。

 あと、2015年にバレーボールのワールドカップ・キャラクターの「バボちゃん」がデビューした時に関連グッズがたくさん出たのだが、その中に「バボちゃん」のお守りグッズで「OVABORI(オバボリ)」という鼻が詰まったみたいな商品があったことも、関係ないけど思い出したので書いておく。あと、確かあの時、「バレーボールのワールドカップ・キャラクターが『バボちゃん』なら、ゲートボールの世界大会があったらキャラクターは『○ボちゃん』になるのか?」という議論が「文化人講座」の読者の間で起こったことも付記しておく。付記するほどのことではないが。

「愛と青春の007」

 いつ既報したのか忘れたが既報の通り、我が家夫婦の外食は歳をとってきたせいもあって行く店がかなり偏っているのだが、我が家の「なじみの店」の店主たちは我々夫婦より年上が多くていつ店を閉めるかわからないという懸念がちょっとだけある(失礼)。そこで、新たな「なじみの店候補」を見つけようと思ってたまに初めての店に入ったりすることもあるのであるが、この10年ぐらい、1回行っただけで我々夫婦の味覚や雰囲気に合わなかったり、1回行って「お」と思って日を開けてもう1回行ったら「あれ?」みたいな店も何軒もあったりして、なかなか「なじみ候補」に出くわさないのである。もちろん、一般的な店の評判や評価の話ではなくて「我々夫婦の望む味や雰囲気に合うかどうか」という個人的な好き嫌いが物差しであるが、そんなこないだの月曜日の夜、夫婦で久しぶりに「初めての店」に行ってみた。すると、「ハズレ」でした(笑)。

 状況を詳細に描写すると店が特定されそうなので表現にモザイクを掛けて書くと、注文して出てきたメニューが、家内の分は「表の食品サンプルの方がうまそうなやいか」というような、「いつから作り置きしとんや」というようなビジュアルで(「店頭に食品サンプルがある店」に絞られたか・笑)、私の分はベースがご飯で上に具材が掛かったメニューだったが(カレー系か丼系あたりに絞られるか・笑)、上の具材はそれなりにおいしかったのに下のご飯が「朝、盛り付けてだいぶ固まってしまったのをレンジでチンしてほぐしもせずに出してきたんか?」という感じの熱々に固まった状態で、私はご飯部分をレンゲで粘土を削るみたいにして食べながら、4分の1ぐらい残して帰った。4分の3も食べたのは、上の具材が「腹が減ってたからそれぐらいは食べてしまった」というぐらいの味だったからであるが、帰りの車の中で我々は「あの店はもうええか」という結論に達して、パンを買って帰ったのである。

 さて、本題はここからである。翌日の朝。私は9時に予約していた美容院に行くために着替えて、「今日の服にはあのマフラーやな。昨日も同じマフラーやったけど、違う場所に行くからええやろ」と思って探したら、そのマフラーがない。なんぼ探してもない。家内に「昨日のマフラー、洗った?」と聞いても「洗ってない」と言う。「車の中に忘れたんかな」と思ってとりあえず駐車場まで行って確認したら、車の中にもない。思案の末に出た結論は、

 昨日の店に忘れたんだ。

 8時半過ぎ、確認のために昨日の店に電話をしたら、誰も出ない。仕方なく、まずは美容院に行って男前に仕上げて(ウソをつきました。仕上がったけど男前にはならなかったことを、ごんから鬼のようなツッコミが入る前に書いとかないかん)、10時過ぎに再度店に電話をしたら女性が出たので「昨日の夜、そちらで食事をした者ですが、マフラーを忘れてませんでしたか?」と聞いたら「あ、ありますよ」と言われた。

田尾「今から取りに行ってもいいですか?」
女性「今から?」
田尾「10分ぐらいで行けると思います」
女性「10分、今…あ、はい」

 ん? ちょっと日本語が怪しいぞ。けどマフラーがあったことは確認できたので、私は10分後、その店に行った。

 行くと、店はまだ開いてなくて準備中で、店内には誰も見えない。「すみませーん」と言ってみたが、誰も出てこない。でも、客席から見えない厨房の奥で何か作業をしている音が聞こえるので、ちょっとのぞき込んで「すみませーん!」と声を掛けたら、作業中のおじさんが出てきた。「あの、昨日マフラーを忘れたんですけど」と言うと、たぶん店主らしいそのおじさんは満面の笑みを浮かべながら表に出てきて、ちょっとたどたどしい日本語で「あー、そこに置いてある」と言った。推理の根拠を書くと店の種類がバレるが、たぶん中国人だ(笑)。

 私が「ありがとうございます。助かりました」と言うと、店主は終始笑顔で、片手間ではなくきちんとこちらに向いて「よかったね」と言ってくれた。めちゃめちゃいい人だ。ナンカレーのネパール人もそうだけど、私は外国から日本に来て一生懸命頑張って働いている「いい人」は、無条件で応援したくなる。私は昨日出てきた料理のことは棚に上げて、こっちも満面の笑みを返しながら手を挙げて、「ありがとうございました! また来ますー!」と言ってマフラーを持って店を出た。

 程なくして、家内から「マフラー、あった?」というラインが来たので、「あった。メチャメチャええ感じの中国人らしいシェフのおっちゃんが出てきたから、“また来ますー”言うてしもた」と返したら、一言、「よわ」と返ってきた。

*****

 というわけで、あの店、もう一回行くかどうか葛藤中である。応援したいけど、あれがまた出てきたらちょっとヘコむ。たぶんまあまあの腕はあるんだろうけど、客が途切れた時のオペレーションがよくないんだ。とすると、客が来て忙しく回っている時は、それなりにいい状態の料理が出るのかもしれない。けど、出ないかもしれない。まあいつもなら「もうええか」になるところだけど、メチャメチャ「いい人」みたいな片鱗が見えたからなあ(笑)。

 ちなみに、私は情緒がかなり単純なので、映画は『007』や『スターウォーズ』や『ジェイソン・ボーン』や、古いものでも『スティング』みたいなやつが好みで、「重い映画」と「ハッピーエンドでない映画」と「愛と青春モノの映画」はまず見ない…という話をしてたら、それを聞いた仲間から「『007』の新作で『愛と青春の007』いうのが出たらどうする?」と聞かれて、「浜村淳にオチまで全部語ってもらって、それを聞いてから半年ぐらい考えて判断する」と言ったことがある。それに匹敵する葛藤が今、あの店にもう一回行くかどうかで起こっている…というどうでもいい話を無理やり表題をこじつけて書いてみたがどうか。

ネパール人のナンカレー

 こないだ、『うどラヂ』テキスト版の3月分の原稿を上げて、担当の元『うどラヂ』ディレクターのK米君に「ここんとこ早め早めに作ってるつもりやったのに、もう2月の中旬とは。2月中に4月分も済ませたいのに、一月分に2週間ぐらいかかっているというもたつきぶりの今日この頃です。精査よろしく」というメッセージを付けて送ったら、数日後にK米君から以下のようなメールが返ってきた。

相変わらずお忙しそうですね。
団長日記、無茶苦茶楽しみにしてますけど、更新は落ち着いてからでいいですよ。
すごく楽しみにしてるんですけど大丈夫です。
今日にでも読みたいと思ってますけど我慢します。
よろしくお願いします(笑)。

というメール文をいつものように無断転載してみたが(笑)、ほんの1年くらい前まで「団長のメールはただの業務連絡でもいつも何か小ネタとかくっついているので、こっちからの返事も何か付けないといけないのかと思うと、返事に1週間ぐらいかかる」とか文句を言っていたK米君が、どんどん成長している(笑)。「人はいくつになっても伸びるんだ」ということを改めて知らされて感動したのであるが、「伸びる方向が正しいかどうか」については、また議論の分かれるところではある(笑)。

 ちなみに、『うどラヂ』テキスト版は過去の『うどラヂ』の中から小ネタ大ネタをピックアップしてその放送内容を加筆編集したもので、今、「KSBアプリ」の中で週1で連載しているのであるが、制作の段取りは、まず私がポッドキャストの過去番組を聴きながらネタをピックアップして音声を文字に起こし、それを加筆編集して原稿にしたものを1ヵ月分ずつK米君に送り、K米君がそれを精査して、気がついたところがあれば「○○のネタの△行目の××のところですが、文字が間違とるやんけボケェ!」みたいにやさしくチェックしてくれるという手順で進めているので、何かあったら「K米君の目が節穴だった」ということでよろしくお願いします(笑)。

 というわけで、「K米君からあんなハイレベルの催促があったからには日記を更新しないといけない」というプレッシャーの中、コピーライター引退中のT山からも「年明けたら『こらえてくれ』いうくらいアップしたるわ!」じゃなかったんすか? そのへん、テキトーっすね(笑)。ちゃんとやってください!」という、きっと酒をかっ食らいながら書いたに違いないテンションのメールまで来ては仕方がない。何のオチもないけど小さな日常の一コマだけ書いて1回分を稼いでおこう。

*****

 昨日の晩、家内が某ドラッグストアがポイント何倍かの日で「買い物に行く」と言うので、ついでに何か食べに行こうということで、南新町と田町とトキワ街の交差するところの角の2階にある、ネパール人がやっている「タリースパイス」というカレー屋に行った。

 「タリースパイス」は店名が「スパイス王国」だった時代から時々行っていた店で、ここ数年は年に3〜5回ぐらいのペースで行っているのであるが、これまでいろんなカレー屋に行ってきた我が家がこの歳になって収束してきた店の1軒にここが入っているのは、カレーとナンがうまいのはもちろんであるが、その上に、おそらくネットやSNSでバズるような「表面的な“ぱっと見”のインパクト」みたいなのがないためか、人があふれていることが少なくていつもゆっくり座れるとか、そのせいでチャラチャラした若い客や取りすました意識高い系の若い客が少なく、一方で傍若無人な振る舞いをするような客層もほとんど見ないとか、ネパール人(だと思う)の店主の人柄が良さそうで(もちろん実際はどうなのか知らないが・笑)、厨房で働いているネパール人(だと思う)の従業員も真面目に一生懸命やっていて、異国の地で頑張っている彼らを見ているとつい応援したくなるとか、そういういろんな要素の総合で、昭和の我々夫婦にとって居心地のいい店だからである。

 それで何度か行っているうちに、店主のネパール人(だと思う)のおじさんも我々夫婦を覚えてくれたみたいで近年は行くとニコニコとして接客してくれるので、帰り際に一言二言声を掛けて帰ったりしていたのだが、この日はレジ前の席に座ってナンカレーを食べていたら、客はあと1組だけで、そっちにメニューを出した後、店主のネパール人(だと思う)がレジ横にずっと立っていたので、ちょっと話しかけてみることにした。

田尾(店内に貼ってあるいろんな写真の中の1枚を指して)「あそこのあれ、ブッダやんな」
ネパ「ブッダね」
田尾「こっちのこれ、象に手足が付いて片足上げて踊ってるみたいな絵は、仏教違うよね」
ネパ「あれはヒンドゥー教の神様ね」
田尾「あっちの寺院みたいな大きい写真。ちっちゃい旗がいっぱい付いたロープみたいなんが放射線状に張ってあって、チベットみたいな感じがするやん」
ネパ「そう。あれはトゥベ」
田尾「あ、チベットってそんな発音するんや」
ネパ「トゥベ」
田尾「ネパールって、宗教は何?」
ネパ「仏教とヒンドゥー教。あとはムスリム。今は外国のいろんな人が入ってきてるから、いろいろ」

 それから店主が「山脈のこっち側とこっち側がこうで…」とか、ネパールとチベットとインドの地理関係と宗教について簡単に説明してくれたので、「インドって仏教が発祥した国なのに、何で今、仏教がほとんど消滅してるん?」と聞いたら、しばらく考えて「んー、ムズカシイ(笑)」と言ったので、この話題は以上で終了(笑)。すると今度は、店主がこっちに質問してきた。

ネパ「日本の宗教は何?」

 ややこしいことを聞いてきたな(笑)。とりあえず小考の後、

田尾「ベースにあるのはたぶん神道」
ネパ「シントー?」
田尾「神社がいっぱいあるやろ? あれ神道。ほんでお寺がいっぱいあるやろ? あれ仏教。昔、仏教が入ってきて、聖徳太子が“仏教にするぞー”言うてから日本に仏教が広まってお寺が増え始めたんやけど、日本の仏教は神道の要素が混ざったり日本風の解釈が入ってきたりしてるからたぶん“日本風の仏教”で、ネパールの仏教とはだいぶ違うと思う」

などとテキトーなことを言っていたら、家内が店主のネパール人(だと思う)に「あんまり聞きよったら終わらんようになるで」と言ったので(笑)、3人で笑って会話は終了した。それから店を後にして、すぐ近くの「グランドファーザーズ」に行って家内はコーヒー、私はいつものホットレモネード(シロップ増量)を頼んで一服して、帰りにドラッグストアで何やかんや買い込んで帰宅したという、最近あまり出歩いてないので大ネタはないけど、出かけた時は小ネタ、微ネタをかき集めながら楽しんでいるという日々である。というわけで、とりあえず今日は生ぬるく、こんなところで。