団長日記
創刊以来最大の追い込まれ中。
そういうわけでこの1カ月ぐらい、『インタレスト』創刊以来最大の「締切に追い込まれ中」である。何がどうなっているのかというと、3月に学生10人ぐらいで手分けしてあるテーマの情報を2000項目ぐらい収集して、それを分類して整理して、ランキングや分布や比較といった編集作業に入って、4月の頭頃からタイトルをつけて見出しをつけて原稿に取りかかって、「1週間ぐらいで仕上げて次の特集に取りかかれるか」という状況になっていたのに、原稿を書いていたら一部でちょっと曖昧なものが出てきて、ネット内をさらに探索していろいろ確認していたら他の情報もだんだん怪しくなってきて、そこからイモヅル式に情報の内容や表記の修正を余儀なくされていって、結局今、1000項目近くを精査し直しながら最終原稿に落とし込むという、本来ならとっくに終わっているはずの作業を延々とやっているという大惨事になっているからである。
こんなものは、最初から私一人でやるか、あるいはかつてのタウン誌時代みたいに常勤のちゃんとした編集スタッフと一緒にやれば、作業は大変でもたいてい大きな後戻りはなくスムーズに進むのである。でも、『インタレスト』は「授業」だから仕方がない。履修してきた数十人の学生に、能力や適性のばらつきがあってもそれなりに分担してやらせる必要があるし、かといって「みんなで力を合わせて作りました」だけでは社会で通用する情報発信の勉強にならないので最後は「プロはこうやって仕上げるんじゃ」いうのを見せつけてやらないかん。ということで、いつも最後に私が苦しむのである。
でも、あと2号で終わるので頑張ります(笑)。この1カ月、追い込まれ中の合間に久しぶりに若手の激うまのうどん屋を見つけたり、久しぶりに団員DとS原を従えてテレビのうどん番組の収録をしたり、車が難病にかかって2週間ほど「神戸ナンバー」の代車でうどん屋に行って地元客から「県外から素人が来た」みたいな目で見られたりと、小ネタや中ネタはそれなりに拾っているので、そこらへんはまた『うどラヂ』で。
「温里湯」と「レディーカガ」
「『超麺通団5』と『超麺通団6』を同時発売する」という無謀な企画はその後、私とN日本出版社のU山さんが正気に返って(笑)結局「年内に2冊出そう」という話に収まって、そこで「一回原稿を上げた『超麺通団5』を精査してちょっと内容を追加しよう」ということになって、とりあえずこないだ、ついに精査を完了した(原稿を書き終えることを業界用語では「脱稿」と言うが、言葉の響きが「脱腸」みたいであまりおしゃれじゃないので私は頑なに使わない)。それで大きな一山を越えたのに、直ちに『インタレスト』の締切に突入して、『うどラヂ・テキスト版』の締切も近づいてきて、授業も間もなく始まるという追い込まれぶりの中、研究室で思案に暮れながら周りを眺めていたら、片付けのスイッチが入ってしまったのである。
しかしまあいずれにしてもあと1年でこの研究室は引き払うことになるので、どっちみち片付けはしなくてはならないということで、まずは20数年にわたって観光マーケティングや情報発信の資料用に集めていた旅行会社や全国の観光地のパンフレットやリーフレットやフライヤーの山を、いるものといらないものに分けて一気に処分することにした。そしたら、まあ片付けの“あるある”で、いるものといらないものを選別しているうちについ読んでしまったり見入ってしまったりするわけで(笑)、片付け始めてからわずか10分で、1枚のフライヤー(誰がいつ「フライヤー」なんか言い出したのか、要するに「チラシ」じゃ)に目が留まった。

2007年に熊本県の山鹿温泉協会というところが行った観光キャンペーンのフライヤーであるが、メインタイトルの「温・里・湯」に小さく書かれたルビが「おん・りぃ・ゆぅ」(笑)。
いやー、数十年ぶりに「笑いの文化人講座」の「お笑いプリントギャラリー」の「恥ずかしい語呂合わせ撲滅委員会」の投稿作品を思い出しました。観光旅行系では、
(タイ旅行のチラシ)……「タイへ行きタイ!」
(グアム旅行のチラシ)…「残暑はグアムに行くざんしょ」
(鎌倉旅行のチラシ)……「いざ鎌倉 いっ寺っしゃい、み寺っしゃい」
(伊勢旅行のチラシ)……「HELLO!! 海老リバディ 舌鯛(ぜったい)満足!」
(鹿児島ガイドマップ)…「はい!地ぃ図」
などというベタネタから、
(西鉄旅行の旅行企画)…「夏のオキャクサマーッ!! キャンペーン」
という爆発ネタまでよっけあったなあ。あと、旅行じゃないけど風呂釜の商品名の「バスコダ釜」とか、サケと高菜が入ったふりかけの商品名「シャケ菜ベイビー」とかの名作もありました(笑)。
続いてもう1枚発見されたのはこれ。

一瞬、レディー・ガガがコラボで「食べ歩きクーポン」を出したのかと思ったら、よく見ると「レディー・ガガ」じゃなくて「レディーカガ」。「ガガ」じゃなくて「カガ(加賀)」だ(笑)。地元加賀の温泉旅館の女将さんや芸妓さんが「レディーカガ」としてお勧めスイーツを紹介するという趣向の2012年の企画だったが、企画がヒットしたかどうかはさておき、なかなか切れ味鋭く遊んでおられて何よりです。「レディーカガ」のお姉さん方にはぜひ一度、小倉駅のプラットホームの立ち食いうどん・そばの「ぷらっとぴっと」とコラボで何かやって欲しいところです。
あと、2015年にバレーボールのワールドカップ・キャラクターの「バボちゃん」がデビューした時に関連グッズがたくさん出たのだが、その中に「バボちゃん」のお守りグッズで「OVABORI(オバボリ)」という鼻が詰まったみたいな商品があったことも、関係ないけど思い出したので書いておく。あと、確かあの時、「バレーボールのワールドカップ・キャラクターが『バボちゃん』なら、ゲートボールの世界大会があったらキャラクターは『○ボちゃん』になるのか?」という議論が「文化人講座」の読者の間で起こったことも付記しておく。付記するほどのことではないが。
「愛と青春の007」
いつ既報したのか忘れたが既報の通り、我が家夫婦の外食は歳をとってきたせいもあって行く店がかなり偏っているのだが、我が家の「なじみの店」の店主たちは我々夫婦より年上が多くていつ店を閉めるかわからないという懸念がちょっとだけある(失礼)。そこで、新たな「なじみの店候補」を見つけようと思ってたまに初めての店に入ったりすることもあるのであるが、この10年ぐらい、1回行っただけで我々夫婦の味覚や雰囲気に合わなかったり、1回行って「お」と思って日を開けてもう1回行ったら「あれ?」みたいな店も何軒もあったりして、なかなか「なじみ候補」に出くわさないのである。もちろん、一般的な店の評判や評価の話ではなくて「我々夫婦の望む味や雰囲気に合うかどうか」という個人的な好き嫌いが物差しであるが、そんなこないだの月曜日の夜、夫婦で久しぶりに「初めての店」に行ってみた。すると、「ハズレ」でした(笑)。
状況を詳細に描写すると店が特定されそうなので表現にモザイクを掛けて書くと、注文して出てきたメニューが、家内の分は「表の食品サンプルの方がうまそうなやいか」というような、「いつから作り置きしとんや」というようなビジュアルで(「店頭に食品サンプルがある店」に絞られたか・笑)、私の分はベースがご飯で上に具材が掛かったメニューだったが(カレー系か丼系あたりに絞られるか・笑)、上の具材はそれなりにおいしかったのに下のご飯が「朝、盛り付けてだいぶ固まってしまったのをレンジでチンしてほぐしもせずに出してきたんか?」という感じの熱々に固まった状態で、私はご飯部分をレンゲで粘土を削るみたいにして食べながら、4分の1ぐらい残して帰った。4分の3も食べたのは、上の具材が「腹が減ってたからそれぐらいは食べてしまった」というぐらいの味だったからであるが、帰りの車の中で我々は「あの店はもうええか」という結論に達して、パンを買って帰ったのである。
さて、本題はここからである。翌日の朝。私は9時に予約していた美容院に行くために着替えて、「今日の服にはあのマフラーやな。昨日も同じマフラーやったけど、違う場所に行くからええやろ」と思って探したら、そのマフラーがない。なんぼ探してもない。家内に「昨日のマフラー、洗った?」と聞いても「洗ってない」と言う。「車の中に忘れたんかな」と思ってとりあえず駐車場まで行って確認したら、車の中にもない。思案の末に出た結論は、
昨日の店に忘れたんだ。
8時半過ぎ、確認のために昨日の店に電話をしたら、誰も出ない。仕方なく、まずは美容院に行って男前に仕上げて(ウソをつきました。仕上がったけど男前にはならなかったことを、ごんから鬼のようなツッコミが入る前に書いとかないかん)、10時過ぎに再度店に電話をしたら女性が出たので「昨日の夜、そちらで食事をした者ですが、マフラーを忘れてませんでしたか?」と聞いたら「あ、ありますよ」と言われた。
田尾「今から取りに行ってもいいですか?」
女性「今から?」
田尾「10分ぐらいで行けると思います」
女性「10分、今…あ、はい」
ん? ちょっと日本語が怪しいぞ。けどマフラーがあったことは確認できたので、私は10分後、その店に行った。
行くと、店はまだ開いてなくて準備中で、店内には誰も見えない。「すみませーん」と言ってみたが、誰も出てこない。でも、客席から見えない厨房の奥で何か作業をしている音が聞こえるので、ちょっとのぞき込んで「すみませーん!」と声を掛けたら、作業中のおじさんが出てきた。「あの、昨日マフラーを忘れたんですけど」と言うと、たぶん店主らしいそのおじさんは満面の笑みを浮かべながら表に出てきて、ちょっとたどたどしい日本語で「あー、そこに置いてある」と言った。推理の根拠を書くと店の種類がバレるが、たぶん中国人だ(笑)。
私が「ありがとうございます。助かりました」と言うと、店主は終始笑顔で、片手間ではなくきちんとこちらに向いて「よかったね」と言ってくれた。めちゃめちゃいい人だ。ナンカレーのネパール人もそうだけど、私は外国から日本に来て一生懸命頑張って働いている「いい人」は、無条件で応援したくなる。私は昨日出てきた料理のことは棚に上げて、こっちも満面の笑みを返しながら手を挙げて、「ありがとうございました! また来ますー!」と言ってマフラーを持って店を出た。
程なくして、家内から「マフラー、あった?」というラインが来たので、「あった。メチャメチャええ感じの中国人らしいシェフのおっちゃんが出てきたから、“また来ますー”言うてしもた」と返したら、一言、「よわ」と返ってきた。
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というわけで、あの店、もう一回行くかどうか葛藤中である。応援したいけど、あれがまた出てきたらちょっとヘコむ。たぶんまあまあの腕はあるんだろうけど、客が途切れた時のオペレーションがよくないんだ。とすると、客が来て忙しく回っている時は、それなりにいい状態の料理が出るのかもしれない。けど、出ないかもしれない。まあいつもなら「もうええか」になるところだけど、メチャメチャ「いい人」みたいな片鱗が見えたからなあ(笑)。
ちなみに、私は情緒がかなり単純なので、映画は『007』や『スターウォーズ』や『ジェイソン・ボーン』や、古いものでも『スティング』みたいなやつが好みで、「重い映画」と「ハッピーエンドでない映画」と「愛と青春モノの映画」はまず見ない…という話をしてたら、それを聞いた仲間から「『007』の新作で『愛と青春の007』いうのが出たらどうする?」と聞かれて、「浜村淳にオチまで全部語ってもらって、それを聞いてから半年ぐらい考えて判断する」と言ったことがある。それに匹敵する葛藤が今、あの店にもう一回行くかどうかで起こっている…というどうでもいい話を無理やり表題をこじつけて書いてみたがどうか。