『インタレスト』配本2日目。清水屋~山越~山内~田村

 『インタレスト』の私の配本コースはここ数年大体同じで、夕方3時半頃大学に納品された本を、まずはその日のうちに「なかむら」と「がもう」と「大島家」と、時間が早ければ間に「日の出製麺所」を挟んで回って、夜はイタリアンの「ピッコロジジ」とお好み焼きの「ふみや」とカフェバーの「NAKAZORA」あたりの行けるところへ寄って、翌日は朝から「清水屋」~「山越」~「山内」~「田村」と回ってくるという行程である。

 こないだ、「山越」のお土産売り場にいる山越の“お姉ちゃん”に「田尾さん、何でいつも田尾さんが持ってくるん? 学生に配らしたらええのに」と言われたが、それは私の生き方(山本七平先生が使っていた「行き方」)だからである。『インタレスト』は、学生たちにはそれぞれ担当部数を持って友人、知人、バイト先等、配れるところに配らせ、高松駅等には大学の職員が配布していたりするのであるが、「讃岐うどん巡りブーム」の黎明期から今日まで現場を共にしてきた大事な“戦友”であるうどん屋さんに物を頼みに行くとなれば、当然「対面が基本」というのが、昭和のおっさんの矜持なのである。こないだから「矜持」の連発であるが、使い方、間違ってないだろうな(笑)。

 ちなみに、あと10~20軒ぐらいのうどん屋さんには団員DとH谷川君が配本してくれているが、彼らもおそらく懇意な店に私と同じように対面でたわいのない会話の一つも挟みながら置いてもらっている(と思う)。デジタル化と効率化が急速に進む今日ではあるが、長らく“対面のコミュニケーション”の時代を生きてきた我々は、便利なデジタル化を利用しつつも、少なくとも身の周りの人たちに対してはできるだけ「対面野郎」でいようと思っているのである(ここは「思っている」にしとこう・笑)。では、本日の行程。

9:00 「清水屋」に到着。店は10:00からなのでまだ店は開いてないが、駐車場に車を停めてトランクを開けて『インタレスト』の箱を出そうとしていたら、それを見つけた大将が表に出てきた。

清水「いつもご苦労さんです」
田尾「またよろしくお願いします。うどんを食べていきたい気持ちは山々なんですけど、この後、山越と山内と田村に行かないといけないので…」
清水「でも、山越はいつも、本持って行ったらうどん食べてるんでしょ?」
田尾「もちろんや。こんな面倒な本を置いてもらってるんだから、行ったらうどん食べるのはマストやないか。ただ、山越も山内も田村も行ったら店が開いてるけど、清水屋さんだけ営業開始前やから、本当に食べたい気持ちは山々なんやけど、涙を飲んで通過せざるを得ないという、辛い選択や」
清水「それ、回る順番を変えたら済むんちゃいます?」
田尾「え? 何? ちょっとよく聞こえんかったんやけど」

などといういつもの定番の愛情に満ちあふれたやりとりをしながら(笑)、10分ぐらい四方山の立ち話をして、本を100冊渡して清水屋を後にする。

9:30 山越に到着したら、もうすでに例の「電柱」のところまで行列ができていた。「これはうどん食べとる場合でない」と思って、お土産売り場にいるお姉ちゃんに400冊を渡して、「行列がすごいから、今日は食べんと行くわ」言うて「山内」に向かう。

10:30 山内に到着。山の上の店の前の駐車場は右奥の4台分のスペースのうちの2台分が空いていたが、そこに、私の前に上がってきた県外ナンバーの軽が、駐車スペースのラインを無視してタテでなくて横向きに停めて店に入ろうとした。乗っていたのはおばさん2人組。そのうち1人は車を降りるとスタスタと店の入口の方に行ってしまったので、続いて車を降りてきたもう一人のおばさんに「車、こっち向き。下にヒモ張ってあるから」と言ったら、「はあ?」みたいな態度で無言で車を停め直した。ちょっと気分悪かったけど、まあええかと思って『インタレスト』を200冊持って店に入って、てっちゃんに「持ってきたでー」言うて渡して(「山内」も「なかむら」も若大将は「てっちゃん」です)、大とゲソ天を食べて、「にしきや」の「ザ・ピーナッツ」を4袋買って店を出たところで、年配のご夫婦とその息子さんご夫婦なのかご兄弟なのか、4人組のご家族に声を掛けられた。

年配夫「あ、あの、田尾さんですか?」
田尾「はい」
年配「うわ! ほんとに田尾さんだ!」
田尾「あ、どうも」
年配「いや、私ら北海道から、これを読みながら来たところなんです」

と言って、ボロボロに読み込んだような『恐るべきさぬきうどん』の第1巻を出してきた。

田尾「うわ、メチャメチャ使い込んでますやん!」
年配「そうなんですよ。今日は朝からずっと、車の中でこれをみんなに読み聞かせながら走ってきたんです!」
田尾「読み聞かせながら! それはまた大変な道中でしたね(笑)」
年配「それでみんなで『こんなおもしろい人がいるんだ』とか言いながら来たんですけど、まさか今読んでた人が目の前にいるなんて! いやー、こんなことってあるんだ! あの、この本にサイン、いただけますか?」
田尾「いいですよ」

と言いながら、奇跡的な出会いにこっちも感激して、牛のイラスト付きのサインを書いてあげました(笑)。

11:30 「山内」から大きく引き返して「田村」に到着。『インタレスト』を50冊持って店に入ったら、数人の客が並んでいる奥で大将と女将さんが忙しそうに動いていた。どうもご近所さんが30玉ぐらい持ち帰りの注文をしているらしい。それが捌けて3~4人後に奥の敷居をまたいで中に入ったのに2人とも下を向いて忙しそうにしたまま全然気がついてくれんので、ちょっと大きめに挨拶をした。

田尾「こんちわー」
大将「あら、田尾さん」

というやり取りの声を聞いて、背中を向けて玉取りをしていた女将さんが振り向いた。

女将「あ! 来た!」
田尾「お久しぶりですー」
女将「言わないかんと思いよったんや!」
田尾「な、何ですか、またうちの若いもんが何かやらかしましたか」
女将「『天かすないんか』いう客がまだ来よる!」
田尾「あっはっは!」

 「田村」は行った人ならご存じの通り、店には天かすは置いてないのだが、実は数カ月前にH谷川君が「田村」に行って、一般客がとても入れない奥の部屋で常連客がうどんに天かすを入れて食べているのを見つけて、それを『うどラヂ』でしゃべったのである(一応大将に「しゃべってもええですか?」と確認は取ったらしいが)。すると、それから何度か「天かすがあるんか」いう客が来たらしくて、それ以降、私が行く度に大将が「『天かすないんか』いうお客さんが来るんやがな(笑)」と笑いながら言ってくるのであるが、久しぶりに女将さんが店に出てる時に行ったら、いきなりツッコまれたやないの(ま、カッコ笑いつきですが・笑)。

田尾「ほんますんません。ちゃんとラジオで『田村で天かすくれ言うな』って言うときますんで」
女将「あれ、影響力あるんやなー」
田尾「すんません、再放送も始まって、何か聴いてる人が増えたらしくて。あと、女将さんが藤井フミヤのコンサートに行って店を休んだこともポッドキャストで世界に発信されてますけど、どうしましょう」
女将「ほんまにもう! それも言われたわ!(笑)」

などという、汗だくで部下の不始末の尻ぬぐいをしながら、また一歩、大将と女将さんの懐に入り込んでちょっとうれしい団長でした(笑)。以上、本日の配本ドタバタ話はここまで。