細いとメガネ

 『インタレスト』は年2回発行で19年目に突入して現在38号目が進行中…ということは、毎年10~20人ぐらいの2年生が新しく履修して入ってくるから、これまでに企画編集に携わった履修学生は総計でおよそ300人ぐらい、その中から編集長も38人も出たことになる。まあ300人といっても、ろくに働かない学生もいたし、私も歳を取ってしまってタウン情報誌時代みたいな記憶力もなくなっているのでとても全員は覚えていないが、それでも名前を聞いて思い出すのが250人ぐらい、その中の編集長や副編、特集リーダーあたりに任命した50~100人ぐらいは、それなりに当時のエピソード付きで覚えていたりする。

 でも、私は基本的に卒業生と卒業後に会うことはほとんどしないので(あいつらは卒業後にあいつらの人生を歩んでいくというか、作っていかないといけないので)、まあ気には止めておくけど「自分で頑張れよ」ぐらいのスタンスでいるのであるが、たまにどこかで卒業生と出くわすこともある…というわけで、今年の4月のある日、某カフェでS々木と仕事の打ち合わせをして帰ろうとしたら、出口で卒業生にばったり出くわした。

吉田「あ、田尾さん」
田尾「うわ、吉田か」

 もう今から12年も前、2012年~2013年あたりの『インタレスト』で猛威を振るった(笑)女子編集カルテットの、十河(14号編集長、15号助監督)、大西(16号編集長)、武政(14、15、16号の3期連続副編集長)、吉田(15号副編集長で、16号は『インタレスト』を履修してなくて単位も出ないのに企画編集に参加)のうちの1人の吉田である。そこで、久しぶりに会ったので近況報告などを立ち話していたら、さっきのカルテットの1人の十河の話になった。

田尾「十河はどないしよんや。あいつ、いつテレビに出てくるかと思って待っちょんやけど、まだ芸人続けよんか。」
吉田「まだやってますよ」
田尾「ほんまかー。まあ無理せんと頑張れ言うといてくれ」

 実は、十河は『インタレスト』で大活躍をした後、卒業して何と、「NSC」に入っちゃったのである。NSC吉本総合芸能学院、NSCは「New Star Creation」の略。しかし、それからまだ、テレビには出てこない。というか、「十河がNSCに入った」という話を聞いて、私は「あいつ、そんなにおもしろいやつだったかなあ」という感想しかなかったのである。あの4人組の中でおもろいことを言うキャラはたぶん吉田だけだったような気がするし、思い起こしても、十河が何かやらかしたのは「発想力開発論」の授業の時ぐらいしかない。

 授業で「『昔から』という発想の道具を使って、冷凍食品や弁当や飲料の新しいアイデアの入口を探す」という練習をした時、他の学生たちが「風林火山弁当」「近藤勇の男飯」「利休の抹茶」「平家御膳」「江戸の雪消飯」といった正統派(?)から「小野妹子のいもごはん」「ナポレオンのナポリタン」「ザビエルのムニエル」「新鮮グミ」等々のダジャレ系言葉遊びまでいろいろ出してくる中、十河が「何をどうしたらいいかわからないんですけど」と言ってきた。そこで、「とりあえず過去の場所やモノや人や事を網羅的に集めて、それに食品をくっつけて妄想しろ。ダジャレでも何でもええ」とアドバイスしたら、十河が苦し紛れに出してきたのが、

「桜田門外のパン」

 あいつがおもろい系のネタで輝いたのは、私の中ではあの一発だけだ(笑)。そんな経緯もあって、しばらく名前もきかないしテレビにも出てこないので「十河はもうNSCをやめたのかもしれない」と思ったりしていたのである。けど、吉田情報によると、どうもまだ舞台とかちっちゃいライブとかでやってるらしい。

 というわけで、吉田から十河の近況などを聞いて、その日は解散したのであった。

*****

 そしたら翌日、その十河から突然、『インタレスト』時代の編集長と制作総指揮の連絡電話以来、10数年ぶりに電話がかかってきた。

田尾「田尾です」
十河「あの、もう10年以上前になるんですが『インタレスト』で編集長をやってました、十河と申しますが…」
田尾「着信に『十河インタレスト』いうて出たけん、最初からわかっとる」
十河「早よ言うてくださいよ」
田尾「ごめんごめん。何? 昨日吉田にバッタリ会うて十河の話も出たんやけど、それ関連か?」
十河「いや、それとは関係なくて、今度の連休に香川に帰って昔のインタレストメンバーと会って食事するんですけど、田尾先生も来ませんか? という電話なんですけど」
田尾「俺はええわ。キミら若いもんで旧交を温めたらええが」
十河「何でですか。来てくださいよ」
田尾「誰が集まるんや」
十河「私と、吉田さんと、武政と、大西ゆりこちゃん」
田尾「猛烈カルテットの女ばっかりやんか。そんなとこには絶対行かん」
十河「そんなこと言わずに来てくださいよ。あ、あと文ちゃんも来ますよ」
田尾「誰や。あの時の文ちゃんいうたら…文野か」
十河「そうですそうです。男も1人ちゃんといますから」
田尾「文野がキミら4人と戦えるか?」
十河「大丈夫ですって。絶対みんな喜びますから来てくださいよ。会場と時間はあとでメールしておきますから」

 という、何だか突然10数年前の『インタレスト』首脳陣2人から別々に2日連続でコンタクトがあって会食にまで行くハメになるという悪夢…じゃなくて奇跡が起こって、5月某日、我々の明日を暗示するかのような豪雨の中、居酒屋みたいな所に集合して、みんなの近況情報を交換しながら4時間もバカ話やバカでない話をして解散しました…と、ここまでが前振り。

 えー、つい数日前に放送された『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』に、十河が出てました。テレビ初出演です。「細いとメガネ」というコンビを組んでるんですが、コンビではなく、4人組のネタの脇役で出てました。ちょっとしか見てないんですが、デキはイマイチでした(笑)。あいつのおもしろさは今風の“爆笑芸”や“トンデモ芸”じゃないところにある、と私は今でも思っているのだが、さて、これからどうなることやら。