ふう、暑いのうニッポンは。
いや、世界中夏は暑いのであるが、昔、「笑いの文化人講座」でポンコツなことをやった友人に「ふう、暑いのうニッポンは」と言ったやつがいたというネタが気に入っちゃって(笑)、そういうニュアンスも含めて使ってみたがどうか(ナンシー関風に)。
さてこの1週間は、火曜日に『インタレスト』首脳陣の安藝と佐野を連れて「がもう」と「田村」と「山越」に行った後、水曜日の編集作業をはさんで木曜日にも安藝と佐野を連れて「谷川米穀店」と「なかむら」と「おか泉」に行くという大サービスのうどんツアーを決行。さらに金曜は「はりや」で「天ざる」(家内はいつものカレーうどんダシぬるめ)を食ってたら最後の客になって、閉店後3時過ぎまで店の中で与太話をしながら過ごし、土曜日は朝から『うどラヂ』の収録をやって昼前に帰り道にある「松下」で女将さんと大将に挨拶して大と天ぷら1コを食べて帰るという、今年一番の密集した「うどんライフ」であった。
その一番の要因は言うまでもなく、「学生連れて2日で6軒」が入ったからである。私は基本的には学生をうどん屋に連れて行くことはほとんどしないのであるが、『インタレスト』のメンバーから要請があれば、仕方なく(笑)、教育の一環として(もうええっちゅうに)、うどんツアーに行くことがある。ということは、要請がなければ全く行かない年もあるし、ものすごく要請してくるメンバーがいる年は5回も6回もツアーに出ることもある。
その際、まあ言うてもみんな大学生だから「讃岐うどん」や「讃岐うどん巡り」については当然まだまだ素人なので、どうせ行くのなら「讃岐うどんの何たるか」の入口に触れてもらおうということで、まずは今日の「讃岐うどん巡りの大隆盛時代」を牽引してきた「昭和の製麺所型レジェンド店」、すなわち「山越」「がもう」「なかむら」「山内」「田村」「谷川米穀店」の「レジェンド6(シックス)」から押さえていくことにしている(かつてはここに琴平の「宮武」が入った「レジェンド7」だった)。この6軒を解説付きで食べ歩くと、まず、その立地や店構え、メニュー構成、応対やサービス内容、客層等々から、「一体何が魅力で『讃岐うどん巡りブーム』が起こったのか」ということが何となく感じられるようになる。次に、麺とダシがそれぞれかなり違うことから、「讃岐うどん巡り」の魅力の大きな要素が「バリエーション」にあることが何となくわかってくるからである。加えて、そういう基本的な「讃岐うどんの“概観”」を踏まえた上で、巷にあふれている「食べログ」をはじめいろんなランキングサイトやいろんな価値観によるブログやユーチューブや口コミ等々の“断片的な情報”を見ながら好きなように動けば、いろんな店の「立ち位置」のようなものがわかってきて「讃岐うどん巡り」にちょっと“通”感が出てくるのではないかと、まあ老婆心ながら(老爺だけど)そんなことを思ったりしているのである。
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ちなみに、その讃岐うどん巡りの「バリエーション」つながりで一つ。近年、「讃岐うどんの麺はこういう形をしているものがよい。こういう状態になっているものがよい」といった解説や主張をしている方々が結構いるらしいが、それは讃岐うどんの麺の「バリエーション」の1つに過ぎないのであって、そうでない形状や状態だけどうまい麺、おもしろい麺を出す店はいくらでもある。というか、そもそも、ブームを牽引して来ながら今なお高いクオリティを維持している「レジェンド」の店は全部「麺」の方向性が明らかに違うのだから、それらの店を評価したりおすすめしたりしながら「麺はエッジが立っているのがいい、表面が内側にヘコんでいるのがいい、角が取れているのはよくない」などと麺の評価を一般化して決めつけるのは、讃岐うどんの情報発信者として自己矛盾を起こしていると言わざるを得ない。
そうじゃなくて、讃岐うどんの麺は角が立ってうまい麺もあれば、角が立っているのにデキの悪い麺もあるのである。角が立ってなくてもうまい麺もあるし、角が取れてデキの悪い麺もある。「田村」みたいに表面がヘコんでなくても抜群にうまい麺もあるし、名前は出さないが表面がヘコんでデキが悪い麺を出す店もあちこちにある。それはおそらく、粉選びから配合、練り、熟成、伸ばし…といった麺線を作るまでの工程と、「ゆで」と「水締め」の仕上げのところで技術や経験の差が出てくるのだろうが、そうやってできた麺も、今度はメニューによってダシとの相性が違ってくる。例えば「おか泉」の麺を「がもう」のダシで食べたら、たぶんちょっと相性が落ちると思うし、こないだ書いたが、あの評判の悪かった「さぬきの夢2000」も「八十八庵」の「打ち込みうどん」にしたら悪くない相性になったりする。事例を挙げたら切りがないが、要するに「讃岐うどんの麺の評価基準を一般化するのは、たぶん間違っている」というのが私の意見である。
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というわけで、「レジェンド6」を全部行った後、さらに要請があれば押さえておく店のラインナップは以下の通り。
●珠玉の一般店…「おか泉」「はりや」
●珠玉の専門店…「長田in香の香」「八十八庵」
●珠玉の町の製麺屋…「竹清」「柳川」
●珠玉の工場麺…「日の出製麺所」「おかだ」
いずれも各分野の代表的な「入口」と言える8店で、これに無理やり今、「スーパー8(エイト)」と命名したが、「レジェンド6」と合わせてこの14軒を私と一緒に全部行った学生は、2年前に卒業した白石(男)と手銭(女)の2人だけである。あいつら、4年になって授業がヒマになったらしょっちゅう「うどん行きましょう!」と言ってくるもんだから、たぶん複数回訪問を含めて20回以上うどん屋巡りをしたのだが、そんなある日、白石が石鎚山に登山に行ったら「金沢から来た」という登山客のおじさんに会ったらしくて、そこでこんなやり取りがあったと報告してきた。
おじ「これから香川に行って、うどん屋巡りをするんです」(と言って、『恐るべきさぬきうどん』を出してきた)
白石「僕、その本を書いた人、知ってますよ」
おじ「え! 団長を知ってるんですか!」
白石「ええ。もう10回以上、一緒にうどん連れて行ってもらいました」
おじ「ええええーーーーーー!!!!!!」
という、驚愕のリアクションが帰ってきて、すっかり白石、そのおじさんから憧れの眼差しを受けたらしい。よかったのー(笑)。