山下、全英女子オープン優勝。

 午前3時過ぎまでテレビ見よったわ。

 山下の予選ラウンドは<ー11>。2位竹田<ー8>に3打差、3位以下には7打差をつけてトップ通過したが、決勝の第3ラウンドでは下がどんどん伸ばしてくるのに山下と竹田だけスコアを落として、最終日、スタート時点ではこういう順位とスコアであった。

1位 ー9 山下美夢有
2位 ー8 キム・アリム
3位 ー7 アンドレア・リー
4位 ー6 勝みなみ
 〃 ー6 チャーリー・ハル
 〃 ー6 メーガン・カン
 〃 ー6 竹田麗央

 誰が勝つやら全くわからん、大混戦の最終日である。これを見て、長年にわたってメジャー大会を何度も見てきた(見てきただけであるが)私のスタート前の心の準備は、「おそらく、山は最低3回来る」であった。

 1つ目の山はスタートして4~5ホールぐらいで、ここは「今日は調子がいいのか悪いのか」が出てくる局面。2つ目の山は5~6番あたりから12~13番あたりまでで、このあたりは前半調子がよかった選手が微妙に狂い始めたり、調子がよくなかった選手が立て直してきたり、調子がまあまあの選手が必死でスコアを維持し続けているうちに“ゾーン”に入ってきたり、逆に張り詰めすぎて一気に崩れ始めたりする“ムービング”な局面。そして、最後の5ホールぐらいは選手のメンタルの揺れもあって「どんな山が何回来るかわからない」という激動の時間帯である。

 そしていよいよ日本時間で夜の10時半頃、最終組の山下とキム・アリムがスタートした。ここから18ホール、プロの試合はハーフでクラブハウスに帰ってカツ丼食って一服したりしないのでおよそ4時間後、たぶん午前2時半か、遅くとも3時前には決着がつく。

 というわけで、まずは今日の調子を窺う前半が始まった。すると、2番でアリムが早々にバーディーを獲って、山下とアリムが<ー9>で並んだ。私はそれを見てもう耐えられなくなって、「こんな展開はしんどくてとても全ホール見られない」と、チャンネルを変えた。「いや、早すぎるやろ」と思うかもしれないが、この気持ち、わかる人にはわかるはずだ。で、とりあえず「ハーフ終わって後半に入る頃に様子を見てみよう」ということで、ちょっと仕事に取りかかって、日付が変わって午前0時半頃、再びテレビをつけたら、スコアが動いていた。

1位 ー12 山下美夢有(9番終了)
2位 ー9 チャーリー・ハル(10番終了)
3位 ー8 キム・アリム(9番終了)
4位 ー7 勝みなみ(10番終了)
5位 ー6 アンドレア・リー(10番終了)
6位 ー5 メーガン・カン(11番終了)
 〃 ー5 竹田麗央(11番終了)

 うわ! 山下が3つバーディー獲って引き離しとる! アリムは前半3バーディー・3ボギーでスコアが伸びず、結構荒れたゴルフをやっている。竹田は1ボギーで我慢のゴルフ中。代わりにチャーリー・ハルが山下と同じ3バーディー・ノーボギーで2位に浮上。勢いは山下とハルだ。しかし、残り山下は9ホール、ハルは8ホールで、3打差がついている。これはどうなんだ?

 中継の解説は、私が「女子ゴルフ解説界の岡田彰布」と称賛する岡本綾子さん(笑)。岡本さんは、風が吹くリンクスのうねるようなフェアウェイに山下がドライバーでティーショットを着弾させるのを見て「昨日、右に左に散っていたドライバーを一晩できっちり修正してきている」と褒めながらも、「まだ全くわからない」と言っている。私も当然、まだどうなるのか全くわからない。そしたらやっぱり、ここから一筋縄ではいかなかった。

 12番ショートホールで、ハルがバーディーを獲って<ー10>。さらに難関の14番ミドルでもバーディーを獲って、ついに<ー11>になった! すると、その間ずーっとパーを続けていた山下が13番で5m以上ありそうな長いパーパットを残した。「これはボギーでハルと並ぶか」と覚悟していたら(おそらく視聴者の99.9%が覚悟して見ていたと思うが)、何と、山下はこれをねじ込んで<ー12>を死守。

 この時点で上位は、

1位 ー12 山下美夢有(13番終了)
2位 ー11 チャーリー・ハル(14番終了)
3位 ー8 キム・アリム(13番終了)
 〃 ー8 勝みなみ(14番終了)
5位 ー7 竹田麗央(14番終了)

となって、どうやら山下とハルの一騎打ちの様相になってきた。しかし、ここまで山下は3バーディー・ノーボギーだが、ハルはそれを上回る5バーディー・ノーボギー。勢いは明らかにハルの方にある…と思っていたら、何と16番ミドルでハルが10mぐらいのボギーパットを残すという大ピンチ! 「これはダブルボギーで一気に3打差に開くぞ」と思っていたら、何とハルがこれを沈めて、ボギーで2打差の<ー10>に踏みとどまった。

 すると、今度は山下が14番でまた3mぐらいのパーパットを残して、「これをボギーでまた1打差か…」と覚悟してたら、強気のパットでど真ん中からドンと入れてパーを拾って2打差をキープした! そしたら17番でハルがボギーを叩いて、<ー9>の3打差になった! 残りホールは、山下が2ホール、ハルが1ホールだけ。「これは決まったか」と思ったら、何と、山下も17番でボギーで<ー11>になって、2打差のまま最終ホールを迎えることになった。

 最終18番はロングホール。まず、先を行くハルが「2オン・イーグル」を狙って渾身のドライバーを振ったら、ものすごい当たりでフェアウェイど真ん中に着弾した。「これはイーグルもあるか、最低でもバーディーはあるぞ」と思っていたら、何と2オンを狙った2打目がグリーンに乗らず、しかもバーディーも獲れずに<ー9>のままでホールアウト。山下、最終ホールを残して2打リードだ!

 そして最終18番ロング。山下はティーショットが左のラフ、2打目がグリーン手前のラフ。しかし残りはウェッジの距離で、ついに実況アナと岡本綾子さんが優勝を確信した会話を開始した。

実況「優勝の瞬間は涙でしょうか、それとも歓喜の笑顔でしょうか」
岡本「最初は笑顔で、みんなのシャンパンを浴びたら泣くんじゃないでしょうか」

 私は山下のボールとグリーンの間にバンカーがあるのを見て、かつての全英オープンの最終ホール、3打差リードで誰もが優勝を疑わなかったバンデベルデが第2打を深いラフに入れて、さらにグリーンまでウェッジの距離からクリークに入れて、さらに今度はバンカーに入れて、トリプルボギーを叩いてプレーオフになって負けた「カーヌスティの悲劇」を思い出したのだが、山下は私の心配をよそに、スパッとグリーンに乗せた。そして、パーで上がって優勝! その瞬間、山下は天を見上げて感極まって涙。仲間が駆けよってシャンパンを浴びせると、ようやく笑顔に。

岡本「(涙と笑顔の順番が)逆でしたね(笑)」

 通訳を介した優勝インタビューで「どうやって平常心を保っていたのか?」みたいなことを聞かれた山下が質問とは関係ない支えてくれた周りの人や両親への感謝の気持ちをコメントしていたのを聞いて(おそらく頭が真っ白になってたのではないかと思うが)、同じ全英女子オープンを勝った渋野の時とはまた違った“ええやつ”を噛みしめた…という、まあそんなことを楽しみながら、仕事もちょっとしながら、なるべく穏やかに、日々過ごしている私である。今週もたぶん暑いけど、火、水、木と出かける仕事が続いて、金曜日に大阪に行って、そこからしばらく軽い油断モードに入ることにする。