「宮川」に「動画撮影禁止」の貼り紙が出る。

 こないだの水曜日、『インタレスト』のミーティングと編集作業の日だったので朝6時半頃に家を出て高速で一気に善通寺に入って、仕事の前に腹ごしらえということで7時過ぎに「宮川」に行ったら、入口の戸に「撮影は自分の丼の静止画だけにしてください」という内容の貼り紙が出ていた。

 あの温厚な宮川が貼り紙を出すほどだからよっぽどのことがあったのだろうと思って、うどん大とチクワ天とタコの入った白い平べったい丸い天ぷらを食べ終えて、器を返して、そこにいた女将さんと娘さんに「貼り紙が出とるやん」と聞いたら、やっぱり、傍若無人な客と、無神経なユーチューバーのせいだった。

女将「ユーチューバーかな、事前に電話してくる人もおるんやけど、あとはいつ来たかもわからんまま勝手に撮って帰ったり、突然店の外から何かブツブツ言いながら動画撮りながら入って来る人もおるし(笑)、店の中でも周りのお客さんが引いとってもおかまいなしにブツブツ言いながらうどん食べよるし(笑)」

田尾「ユーチューバーはみんな、そんなことやってるんやろなあ。それもまあ大変やとは思うけど」

女将「それでもたいがいのことやったら我慢するんやけど、やっぱりお客さんに迷惑がかかったりし始めたきんな。テレビやったら事前にちゃんと説明してきて、撮影の当日も挨拶してきて、そこにお客さんがおったらたいてい『今からこのあたりで撮ります』とか『映ってもかまんですか?』とか、ちゃんとお客さんに気ぃ使いながらするやん。けどユーチューバーとか写真や動画を撮る一般客はそういうのは一切せんから、結構気分を害するお客さんが出てきてなあ」

 近年あちこちの店で「撮影禁止」の表示が出てるから、「宮川」に限らずおそらくあちこちのうどん店で同じように迷惑がかかってるんだと思う。ちなみに先月は「がもう」で、店に入るなり何も言わずにいきなりスマホで大将の作業や店内を撮り始める客を連発で目撃した。大将もガモムスも弟も「注意してもなあ…」みたいな感じで温厚に流していたが、あとで聞いたらやっぱりそういう傍若無人な客にはちょっと閉口しているようだ。

 こういう風潮は、私はとりあえず「新しいものが出てきた時の初期不良」の一つだと思っている。ビジネスの新しい技術やシステム等は計画段階でどれだけ“詰め”ても「やってみないとわからない」という部分が必ずあるわけで、その「やってみて初めてわかる初期不良」を段階的に改善しながらよくなっていくのがビジネスの常であるが、こういう「閉口する行為」は「インターネットやSNSの普及」という新しい環境における“初期不良”だと言える。

 ただし、SNSという新しい環境の中でこういう傍若無人な客や無神経なユーチューバーが起こす初期不良は、個人、特にタチの悪い個人は往々にして統率が利かないので、改善に間違いなく長い時間がかかる。具体的には、何か“コト”が起こってから法律や暗黙のルールができていき、また“コト”が起こって世間の風潮が変わり…みたいなことを何度も何度も繰り返しながら今よりもちょっとずつ良くなっていくのだろうと思うが、「どうかしている企業」はマーケットの中でかなり淘汰されていくけど「どうかしている個人」はなかなか淘汰されないので、改善に時間がかかる上に、たぶんなくならないと思うのである(もちろん、メディアや情報発信者のルールやモラルをきちんと守る客やユーチューバーもたくさんいるとは思うが)。

 だから、傍若無人な客や無神経なユーチューバー等の行為を「いかがなものか」とは思いながら、「そのうちバカが大きなコトを何度か起こしているうちに流れが変わるに違いない」と俯瞰して見ていたりするのである。「宮川の貼り紙」も小さな“流れ”であるが、極端に言えば香川のうどん店が全部「撮影禁止」の貼り紙を出すような大きな“流れ”になれば、何かが少し変わってくるはずだから。

 というわけで、食後の「宮川」でそんな立ち話をした後、最後に

田尾「けど温厚な宮川としては、お客さんのおる前であからさまに注意もしにくいしなあ」

娘 「注意したことあるんよ。そしたら怒る人がおるん」

田尾「ひどい話やなあ。ほな、ブログにちょっとだけ、なるべく温厚に書いとくわ(笑)」

 と言って出口の方に向かおうとしたら、娘さんに呼び止められた。

娘 「あ、先生!」

田尾「何?」

娘 「お金」

 あやうく食い逃げして無神経なユーチューバーより迷惑な客になるとこやったわ(笑)。