若者の文字は小さい。

 先日、わけあって高松の太田あたりで1時間ほど時間待ちをすることになったので、サンフラワー通りのスターバックスに初めて入ってみたのである。

 私はスターバックスにはあんまり入ったことがないのだが、その理由ははっきりしている。私はスタバに対して「何か“意識高い系”の若い客がパソコン開いて“意識高い系”の仕事をしてたりする店」というイメージがあって、昭和のおっさんが一人で入って行ったら「場違いな客」になって店やお客さんにちょっと嫌な思いをさせてしまうに違いないという恐れを勝手に持っているからである。だから、今まで私がスタバに入ったのは打ち合わせとかで何人かと一緒に行った「丸亀町商店街のスタバ」と、おっさんが行っても全く“場違い感”のない「香大病院のスタバ」だけである(笑)。ところが、今回は「連絡があったらなるべく早く駆けつけないといけない場所の近くにある、仕事しながら時間を潰せる店」という厳しい条件を満たす店が「サンフラワーのスタバ」しかなかったため、意を決して入ってみたというわけだ。

 ちなみに、あそこのスタバは何年か前に通りかかった時に駐車場待ちの車が道路にあふれて連なっていて、それを警備員の方が何人かで交通整理をやっていたのを見て以来、何かいつもすごく混んでるイメージを持っていた。つまり「食わず嫌い」じゃなくて「行かず苦手」みたいなところがあったのだが、この日も車で店の前に行くと入口に警備員のおじさんが立っていたので、「今日も一杯か…」と思いながら、しかし駐車場待ちの車はいないようだったので案内されるまま敷地に入った。すると、すぐに「ドライブスルー」と「駐車場」と「出口」の表示が一辺に目に入ってきた。ん?…ん?

 実は、私は昔から「とっさの表示板」にとても弱いのである。まだカーナビが十分に普及してない時代の話であるが、牛乳屋さんの運転するパジェロ(カーナビなし)で京都から高松に帰ってくる途中、助手席でナビ係をしていた私は、高速で大阪を過ぎてしばらくして「神戸」と書かれた看板を見てとっさに「大阪→神戸→岡山やからそっちやな」と思って牛乳屋さんに「あ、その先、左です」言うて、それに従って牛乳屋さんが車を左車線に入れたらそのまま神戸市内の一般道に下りてしまって、そこから夜の暗い道を苦労して苦労して苦労してずいぶん走ってようやくどこかのインターから高速に乗り直したのだが、今度は岡山県に入って「岡山」とか書かれた看板を見てとっさに「岡山→高松やからそっちやな」と思って「あ、その先、左です」言うて岡山市内の一般道に下りてしまって、牛乳屋さんが「もうええわ!」言うて漫才を終えたぐらい「とっさの表示板」に弱いので、「ドライブスルー」と「駐車場」と「出口」の表示が一辺に目に入ってきただけでさっそく一回違うところに入って(笑)、切り返して何とか植え込みの向こう側の駐車スペースに車を停めて、店に入った。

 店内は案の定、若者ばっかりだ。2人掛けと4人掛けのテーブルは何となく埋まってて、どこに座っても若者と近いからあまりよろしくない(笑)。カフェラテのアイスのトールを持って店内を見渡すと、10人以上座れる大きいテーブル席の端の方が空いてたので、そこに座ってMacBook Airを開けた。すると、いきなり画面の真ん中に阪神タイガースの虎が吠えているマークが出たので、あわてて原稿のファイルの画面に切り替える。私のパソコンは買うたびに団員S原にセッティングしてもらっているのだが、勝手知ったるS原が勝手にトップに阪神のマークを入れたのである。しかし私はそれの差し替えの方法も知らないし、まあ別に特に支障もないのでそのままにしているのだが、唯一支障が出てくるのが、こうやって他の人がいるところでパソコンを開く時である。

 で、一瞬出た阪神のマークを後ろから誰かに見られてないかとちょっとだけ窺って(笑)、想像してもらうなら、映画の『スティング』で列車の中でゴンドーフ(ポール・ニューマン)がロネガン(ロバート・ショウ)をポーカーで騙す時に後ろに立っているロネガンの手下から手札を隠しながら確認する、あれみたいな感じでちょっとだけ後ろを窺って(わかるかい!)、テキストファイルを開いて、まずは「うどん関連」の原稿に取りかかった。

*****

(うーむ、文章が長いから途中でごんの相づちを一つ入れとくか)←私の心の中の声

ごん「どういうことですか?」

(ちょっとリズムが悪いか。もうちょっと短めにするか)

ごん「どういうこと?」

(ちょっと違うな…)

ごん「どゆこと?」

(やっぱりごんはこれやな)

*****

…などと推敲しながらおバカ原稿を書いていたら、後ろを若者客が通ったので、ふと気になった。賢そうな文章ならともかく、こんなアホな文章を後ろから見られたら、みっともないことこの上ないぞ。

 そこで一計を案じた私は、文章の表示倍率を一つ落とした。どうだ、これで後ろからチラッと見たぐらいでは何を書いてるかわからんだろう。私の視力にはちょっと厳しいが、メガネを外したら焦点は合うから大丈夫だ。ということでちょっと安心した私は、そこから恐るべき集中力が湧いてきて、なかなかの勢いで原稿が進み始めた。気がつくと、あっという間に40分ぐらい経っていた。

 しばらくすると、少し間を開けた隣に30代くらいの青年が座って、タブレットみたいなのを立てて何か仕事のようなものを始めた。斜め向かいではこれも30代くらいの女性がパソコンを開けて、リモートで何かしゃべっている。店内のBGMがそれなりの音量で流れているので、話し声はあまり気にならない。ふと外を見ると、テラス席でこれまた30代くらいの男性がパソコンにいろんなものをくっつけて、リモートなのかユーチューブなのかわからんが何かやっている。なるほど、そういう時代なのか。おっちゃん、そういう文明の利器には全くついて行けんわ。けど、書いとるもんのレベルとクオリティは、まだまだ負けてない気がするぞ(笑)。

 などと思いながらついでに日記の原稿も書いてたら、呼び出しがかかった。パソコンを閉じてバッグにしまって席を立って、帰り際に隣の兄ちゃんのタブレットの画面をチラッと見たら、びっしり書かれた文字の大きさが、私のいつも書いてる文字の4分の1ぐらいの大きさだった! えーっ! 倍率下げたのに、若者はもっと小さい文字でやってるのか! すると、さっき開いてた画面に書いてた「…5本中4本がシモネタになる方に100円(笑)」の文字は、後ろを通ってた人たちに“丸わかり状態”だったのか?(笑)