一般店1日5軒の荒行。

 昨日は朝の10時から夕方4時までの間に一般店を5軒もハシゴするという、「古希を目前にして何でこんな“荒行”をせないかんのや」という大惨事(笑)に見舞われた。「荒行(あらぎょう)」というのは本来「修行者が苦難を耐えながらやる修行」のことで、物の本には「滝に打たれたり、野宿をしたり、断食をしたり…」とあったが、そこに「バカみたいに食う」も入れてほしいぐらいの苦行であった。

 事の発端は今月の初め頃、岡山の情報誌『オセラ』から「麺の特集をやるので、そこに讃岐うどんの指南役として一枚嚙んで欲しい」という依頼が来たことに始まる。『オセラ』は私がタウン誌の現役の頃にお友達の『タウン情報おかやま』が関連誌として創刊した雑誌で、創刊時のスタッフを存じ上げていることからとりあえず受けることにしたのだが、最初に「田尾さんの最近のおすすめのうどん屋さんを何軒か紹介して下さい」というフワッとした依頼が来たので、「テーマを絞らないと店が選べん」ということで、読者のターゲットや伝えたいメッセージを整理しながら、最終的に「この10年ぐらいで新しくできた若手の大将がやっているうどん店の中から、麺のクオリティが高くて、その方向性もバラエティで、団長が注目している店」に絞り込んだのである。

 ピックアップしたのは、ネタバレになるのでイニシャルトークすると、「TT」と、もひとつ「TT」と、「KK」と、もひとつ「KK」と、あと「WB」と「SB」の6軒。うわー、なんかバレそう(笑)。

 しかし、そこから今度は取材スケジュールで紆余曲折が始まった。

 まず、この6軒はすべて一般店であるから「1日に一般店のガッツリメニューを6軒も食べるのはさすがに厳しい」と伝えると、「3軒ずつ、2回に分けて行きましょう」という案が出てきた。さらに「団長と麺通団員をお一人一緒に」という話になってきたのであるが、一緒に行ってバカ話ができるメンバーと言えば、たちまちの候補は『うどラヂ』メンバーの3人しかいない。しかし、そのうち2人は、名誉のために名前は伏せるが「うどんはあんまり詳しくない」という、『うどラヂ』的には必要なポジションにあるものの「うどん指南役」としてはポンコツコンビなので(笑)、必然的に取材の相方は1人に絞られて、私はH谷川君を連れて行くことになったのである。

ごん・谷本「バレてるじゃないですか!」

 というお約束の前振りで「団長・H谷川」のコンビが出動することになったのであるが、今度は「私より忙しいH谷川君に貴重な休日を2日もうどん巡りに引っ張り出すのはいかがなものか」という問題が出てきた。そこで次の代案として、「団長・H谷川コンビで1日4軒だけ行って、あとの2軒は編集者だけで行ってもらうか、涙を呑んでカットするか」という話になった。で、結局「H谷川君に無理させることはできないし、私もそうそう無理はできない」ということで、「とりあえず1日に4軒だけ行く」ということで、編集部にアポを取ってもらったのである。すると後日、驚愕の返事が返ってきた。

編集「3軒は取材OKをいただいたのですが、もう1軒は当日、定休日でした」

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ごん「この期に及んで、また定休日を忘れてたんですか!」
団長「まさかこんなところで“団長あるある”が出てくるとは(笑)」

 というすったもんだの末、最終的に、

●21日(日)に私とH谷川君が編集スタッフと一緒に、アポを取って取材OKをもらった「SB」と「TT」と「WB」の3軒を回る。
●別の日に私だけが編集スタッフと一緒に、アポの取れた「KK」に行く。

 ということになった。そして昨日の朝、岡山から編集の女性とライターの女性が車で香川に来て、H谷川君を拾って、私を拾って、1軒目の「KK」に向かっていたのである。ところが、その道中でH谷川君が「“若手の麺の注目株”で(もう一軒の)TTと(もう一軒の)KKをカットしたらダメでしょう」と言い始めたのである。

田尾「まあ確かに、その2軒を外したら企画のパンチが削がれるのー。読者は別に何とも思わんやろけど、我々的にはチョイスに悔いが残るかもしれん」
H谷「行きましょうよ。このタイムスケジュール見たら、結構ゆるゆるじゃないですか。間に2軒ぐらい入りますよ」
田尾「そうやのー、入れられるんなら入れたいところや。けど、事前アポ取ってないぞ」
H谷「KKは団長が突然行っても頼み込めるんじゃないですか? TTは僕が頼めますよ」
田尾「行けるか。けど5軒も食えるか?」
H谷「大丈夫ですよ。団長が食べられなくなっても、僕が残りを食べて仕舞いつけますから」
ライ「素晴らしい師弟愛(笑)」
編集「じゃあ、お店に電話してみましょうか?」
田尾「いや、直接行って、対面で頼んでみる方がええ。それでダメだったら、うどんだけ食べて帰って来ましょう」

 という経緯で、結果、突然の2軒も快く取材を受けてくれて、1日5軒という荒行になったのである。私はこの日、4軒目まですべて完食。最後の5軒目の前に苦しみながらコンビニで「液キャベ」を買って飲んだら5軒目も完食できて、「液キャベ」の即効性に感嘆しながら、嵐の1日を終えたのであった。「おにぎりの手握り型と型抜き型の最高峰問題(笑)」とか、「自らの麺の素晴らしさに気がついていない大将問題(笑)」とか、「麺と向き合わない境地に達している大将問題(笑)」とか、「団長、見ず知らずの女性客にある理由で声を掛けるか掛けないか葛藤する事件(笑)」とか、「すべるように抜ける麺でコメントもすべる事件(笑)」とか、各店での小ネタ、中ネタは満載であるが、ここに書いていたら1冊の本の50ページぐらい行きそうなので、そのあたりは『うどラヂ』で小出しにしながら、何なら次の本でガッツリと書くことにしよう(笑)。